ここまで見てきた「ヒト」「モノ」。こられをおおもとから動かすのが「カネ」です。日銀を中心に、景気が上向くようにお金の量と流れをコントロールしている様子を見ていきましょう。
金融機関にお勤めのひとはもちろん、資金繰りを考えているひと、さらには投資をしている人にとっては基本中のキホンです。ここが分かるようになってから、大きなお金を動かすようにしましょう。
カネの量をコントロールする2つの方法
日銀による金融政策は、市場に出回る”カネ”の量をコントロールして景気を刺激したり、抑制したりする役割を持ちます。カネの量をコントロールするには大きく2つの方法があります。
1つ目は”金利を上げる”ことです。金利を上げれば簡単に景気が回復するわけではなく、企業や個人、そして政府にも体力が必要です。そのため、日本ではなかなか金利を上げることができません。
金利には長期金利と短期金利があります。長期金利(主に借金するとき金利の基準)は新発10年国債の利回り、短期金利(主に預けるときの金利の基準)はコールレート翌日物が代表金利です。これはお金の流れの原点です。
【新発10年国債の利回り】
企業の設備投資や個人の住宅投資を大きく左右するなど、経済の動向と密接な関わりがある。住宅ローンを借りている方や長期の国債で貯蓄をされている方にとっては、大変身近なもの。
【コールレート翌日物】
金融機関同士が短期資金を貸し借りするときの利率。現在は日本の政策金利であり、金融政策の誘導目標金利の役割を果たしている。
流れるお金、実在するお金
カネの量をコントロールする2つ目の方法です。
実際に流れているお金の量はマネタリーベースで確認できます。マネタリーベースは実際に出回っているお金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計で、ここ数年は過去最高を更新し続けています。日銀は、マネタリーベースを年間約80兆円増やすペースで国債を中心とした金融資産の買い入れを続けています。個人レベルで言えば、”お財布の中のお金”を意味しています。
一方、私たち国民がどれだけのお金(資産)を保有しているのかを確認できるのがマネーストックです。これは、現金化していなくてもデータ上存在するお金の総量ということができます。個人レベルで言えば、”通帳に記帳されているお金”を含めた総額を意味しています。
【M3増加率】
マネーストック(M3)は、出回っているお金の総量をマネーストックで、通貨残高ともいいます。金融機関全体から、市場全体にどの程度供給されているかを示します。金融機関と中央政府を除く、一般法人、個人、地方公共団体(民間部門)の保有する通貨量残高を集計したもの。
【マネタリーベース】
⽇銀が供給する通貨量。バラマキ量。
マネタリーベース = ⽇本銀⾏券発⾏高 + 貨幣流通量 + ⽇銀当座預⾦
日銀は現在、このマネタリーベースを積極的に増やすことを重要な政策としています。それは、「現金があれば使いたくなる」心理をあおるものです。私たち個人で考えれば、財布の中にたくさん現金がれば使いたくなるのと同じ発想です。
銀行の本来の役割が「貸付」
これだけお金をばらまいているということは、銀行にもジャブジャブお金が流れていると思いますよね? 銀行はお金の貸付が本業ですから、貸出残高がどれくらい増えているのか確認しておく必要があります。銀行が潤ってないと景気は良くならないです。
【銀行計貸出残高】
都市銀・信託銀・地銀・第二地銀などの貸出残高の合計金額。景気拡大期は企業による設備投資が増え資金需要が拡大するため貸出残高は増加する。
マネタリーベースの増加割合に比べて、銀行の貸付はそれほど増えていませんよね。どういうことでしょうか?
銀行は貸付業ができなければ収益を伸ばすことができません。いくら貸す準備ができていても、借りたい!と思う個人や法人がいない、ということです。
出回る現金の量や、貸付が消費を促す
カネの量や、貸付そして金利が単純には消費につながっていないのが、現在の日本の状況です。
- 借りたお金を返すだけの力がない
- お金を使ったところで、入ってくる見込みがない
要因はさまざまでしょう。日銀の政策が功を奏するには、まだまだ時間がかかりそうです。
つづく。