”法的な夫婦”と”税や社会保障”について触れましたが、今回は”男女”について考察します。FP(ファイナンシャルプランニング)や税法(所得税法や相続税法)を学ぶ中で、”覚える”ことに徹していても”疑問”に思うケースが多々あります。
所得税法における男女の違い
課税の公平性を謳う税金(所得税)では、「男女では稼ぎ力に差がある」との認識を、家族を扶養する際の経費へ反映しています。
▶寡婦控除(寡夫控除)
離別や死別等により、ひとり身(ひとり親)になった場合の所得控除です。
男性の場合の控除は廃止され、現在は女性のみ適用。こどもを扶養している場合には別途、ひとり親控除が新設されました。これにより、男女同一の権利が一部保障されています。
公的年金における男女の違い
年金の原型が決まった昭和16年当時の社会環境・労働環境から、男女にはある程度の格差があるものとして、色濃く仕組みの違いがあります。随時、パッチワークのようにつぎはぎをしてきましたが、制度が複雑になる一方で、男女の違いは依然として残っています。
▶寡婦年金(国民年金の制度のひとつ)
自営業など営む夫が特定の要件を満たした場合、婚姻期間10年以上ある妻が受け取る権利のある年金。死亡一時金(これは男女の違いなし)との選択適用。
▶遺族厚生年金(厚生年金の制度のひとつ)
厚生年金に加入歴のある者が死亡したとき、その配偶者が特定の要件を満たした場合に受給できる年金。男性(妻を亡くした夫)には年齢要件など女性(夫を亡くした妻)よりも要件が厳しくなる。
▶中高齢寡婦加算(厚生年金の制度のひとつ)
遺族厚生年金を受給している妻が40歳から65歳まで間、一定額が加算される年金。
健康保険における男女の違い
出産や育児となると、当然に女性が主役になります。社会保険において、男性(夫)は女性の補佐的な意味合いが強く、イクメンであっても、家計に寄与する給付の水準は限定的と言えます。
▶出産育児一時金、出産手当金
出産したときは「出産育児一時金」が、被扶養者が出産したときは「家族出産育児一時金」が支給されます。また、被保険者本人が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合には「出産手当金」が支給されますが、こちらは本人(女性)という要件、そして給与の支払いを受けていることが要件です。つまり、自営業者の場合には適用がありません。
生物学的な性別=sex
税や社会保険において、夫婦・扶養という概念が根底にある以上、”男女”という”生物学的な性別(sex)”が要件となります。また、かつて男女の社会的な位置づけが区別されていた時代の名残で、男性の場合、女性の場合といった区分を設けている事実があります。
区分を設けていることは、決して差別ではなく”公平性を担保”しているにすぎません。どこかに過去のモヤモヤが残っているうちは、いつまで経っても区別をなくすことはできません。むしろ、それを”公平”と言い切ってしまうのが良いのかもしれません。
ただし、いつになったら過去の遺産が解消でき、公平・区別ではなく「平等を実現するのか、しないのか」は議論が必要だと感じます。
その際、たとえば出産といった、どうしても取り除けない「違い」を十分に理解しておく必要があります。生物学的な性別を常に意識しておくことです。
社会的・文化的に作られる性別=gendar
ジェンダー(gendar)については、医学的な性別とは別の議論とすべきであって、税や社会保障を含めたすべてを平等することには、大いに無理があります。
婚姻、扶養、役割、地位など、一朝一夕にすべてを解決することはできません。ただし、ひとつひとつ丁寧に議論を進めていかないと、対立を深めるばかりです。
- 差別だと騒ぐ
- 給付が少なくて不公平だと主張する
- 女性にも権利を
- 男性、女性という区別にうんざりする
- 「女子力」は歓迎、「男勝り」は差別という発想
このような議論は、意見として聞き流されるだけです。もっと本質的なところ「政治・行政では・・・」「社会保障や納税においては・・・」など区分と、違いを明確にすることが求められます。
票田稼ぎばかりの政治屋さんではなく、政治家をめざす人を選出すべく争点は、そこにあります。
正しい言葉を
男女平等、ジェンダーフリー、多様性、ダイバーシティ。
議論を交わすお互いが、正しく言葉を理解したうえで、まっとうな議論が展開できることを願うばかりです。
お金についての平等と公平についてお話しています。