[06]日経夕刊は日本経済の源流情報

日経新聞の読み方

 朝刊だけでなく、夕刊をどのように読めばよいのか分からないという声を耳にします。記事の特徴で触れたように、何曜日にどんな記事が掲載されているのか、そして朝刊と夕刊の記事の違いについて確認することが大切です。

 夕刊の得意分野は海外マーケット情報なので、外国企業との取引がある会社に勤めているビジネスパーソンはもちろん、海外資産に投資している投資家、そして物価高騰にヤキモキする一般消費者も、注目すべき情報が満載です。

 経済は日本単独では成立しません。海外からの輸入品に頼る以上、海外の動きにも注目すべきで「日本経済の源流」とも言えます。

1面|想像力を豊かに

 夕刊の得意分野は海外情報ですから、海外情報に興味がない場合は、思い切って読み捨てましょう。気になる情報があるときだけ「日経新聞はどう考えているのか」を探る程度で良いかも知れません。

《景気予報》

 1面には、夕刊の景気の天気予報であるWORLD MAREKETSで「NYダウ」「ナスダック」「FTSE100」など欧米の株価情報を中心に掲載されます。

World Markets(夕刊)
World Markets(夕刊)

 世界には大きな3つの経済集団があります。私たち日本や中国を中心とするアジア、アメリアを中心とする北米、そしてイギリスやドイツを中心とする欧州です。朝刊のMARKETSと同様に、景気の天気予報は「良い」「悪い」「停滞」などとだいたいの感触をもつ習慣をつけましょう。

《閑話休題が役に立つ》

  読み物としても有効な日経新聞。「あすへの話題」では日本で活躍する角界6人のプロがいま考えること、気になるテーマなど、気軽に読める内容ばかりです。 そして、記事にでてきたキーワードが、世界経済・日本経済にどのような影響があるのか。あるいは経済がキーワードに与える影響について考えることも、経済感度を鍛える秘訣です。せっかく日経新聞を読むなら、つねに“経済と絡めた読み方”を意識すると良いですね。そして、ビジネスや日常生活でのコミュニケーションツールとしても役立ちます。

1面とニュースぷらす面の話題
1面とニュースぷらす面の話題

 次面のニュースプラス面では、さらに身近な話題、知っておきたい話題が日替わりで登場します。知って得する情報や、これまで知らずにいた“なるほど”を知る良い機会にもなるでしょう。こちらも、経済との関連を意識した読み方を心がけましょう。

総合面(夕刊)|海外情報の速報が満載

 朝刊と同様、総合面には大切な状況情報と数字情報が集まります。

  • 外国政府や金融機関、そして大企業に関する“状況”
  • 外国の景気経済指標の速報、国内当日(午前)の経済指標などの“数値”

少なくとも、数値を確認したうえ、相場観をもっておくことが大切です。同時に改善傾向なのか、悪化の一路なのかを自分なりに判断する習慣づけも必要です。 多くても10程度の記事ですし、中にはベタ記事「短信」もあるので、すべてを読んでも短時間で読み終えることができるでしょう。

総合面(夕刊)
総合面(夕刊)

《日本経済への影響が大きい海外情報》

 総合面にはアメリカの経済指標が多く掲載されます。そのほとんどが日本への影響が大きいとされます。貿易額が巨額であることや、株式市場の連動性、金利差などが日本経済への影響を高めています。

 夕刊の総合面に掲載される経済指標のうちとくに大切なのは、雇用者数、農産物需給予想、消費者物価指数、長期金利です。

  • 雇用者数;どれだけの就業者がいるのか=景気の良し悪しを判断
  • 消費者物価;消費動向に影響
  • 農産物需給予想;アメリカ国内、日本の物価へ大きな影響
  • 長期金利;日本とアメリカでの金利差は為替相場に影響

《日本経済を占う指標》

 日本経済の動向を知るのに重要な指標は、失業率、鉱工業生産、そして消費者物価です。それぞれには事前に予測値が発表されますが、予測値よりも良かった場合には株式市場が好転しますが、それ以外の場合にはほとんど市場は反応しないのが日本市場の現状です。

  • 失業率;職を求める人がどれだけいるのか(アメリカの「雇用者」とは逆の発想です)
  • 鉱工業生産;企業(工場)がどれだけモノ作りを進めているか
  • 消費者物価;生鮮食料品などを除く物価

《会議名には敏感に!》

 アメリカでは年に8回、中央銀行(FRB)のトップなどが集まって経済状況について話し合い、政策を決定する会議があります。この会議をFOMC(後記)と言います。FOMCの前には、経済指標を集めた書類”ベージュブック(後記)”が発表され、その内容に注目が集まります。

 ベージュブックはFOMCの2週間前の水曜日に発表されるので、FOMCの結果までにある程度の推測をたてて投資活動を行うことができます。

 日本では、金融政策決定会合が年に8回、FOMCとほぼ同時期に開催されます。終了後に、日銀総裁の記者会見が行われ、発表の内容によっては大きく市場(株式市場や債券市場)が反応します。近年、市場が上向きになることは少なく、期待外れから下落相場になることが多いです。

《やっぱりGDP;国の経済規模》

 国の経済規模をはかる尺度が、GDP(国内総生産)です。どれだけの消費活動があったのか、あるいはモノやサービスが提供されたのかを数値化したものです。

 GDPはアメリカや日本だけでなく、中国や欧州各国の数値(動向)を知っておくと投資感度が高まるでしょう。GDPは1年に4回発表されます。それぞれに速報値、改定値、確定値が発表されるので、毎月何らかの数値を知ることになります。

 経済指標、景気指標についての詳細は、改めて触れることにします。

マーケット・投資面|地図と表で「見る」海外情報

マーケット・投資面
マーケット・投資面

《「見る」海外情報》

 マーケット・投資面は、アジア地域を中心に株価を地図で確認することができます。株価の騰落を視覚的に確認でき、まさに景気の天気予報と言えます。台湾、インドネシア、ベトナム、マレーシアなど、あまり普段耳にすることのない株価指数は、アジアの

 国際・アジア面ニュースや為替情報と合わせ読むことで、各国の景気を予測でき、ビジネスや投資に活用できます。

 ほかにも、欧米株、為替、金利、商品を代表する指標がそれぞれ一覧表になっているので、大切な情報だけを効率よく知ることができます。

《「読む」海外情報、日本市場》

 図表だけでなく、短めの記事もいくつかあります。

海外情報についてはウォール街ラウンドアップで、主にニューヨーク市場から推測するアメリカ経済を分析しています。

日 本市場については、十字路で大学教授やエコノミストの見解、話題の株では東京株式市場で値動きが目立つ銘柄についての紹介し、証券会社の運用担当者等が要因分析を行っています。自分が保有する銘柄や、注目している企業の情報を端的に知ることができます。

 火曜日~金曜日は、日替わりで「通貨」「日本株式」「投資信託」「ニュース」をランキング形式で注目度を知らせてくれます。自分が保有している商品、気になっているニュースが、どれくらい注目されているのかをチェックできるというメリットがありますね。

証券・商品面|詳しい海外マーケット情報で“先読み力”を増強

 マーケット・投資面が“現状”あるいは“結果”でしたが、証券・商品面では、それらをさらに詳細に読み解き、“予測”も可能な情報を知ることができます。

証券・商品面
証券・商品面

《「海外為替」で相場観》

 為替相場は相対的な国力が分かります。海外との取引があったり、外貨建て商品での運用をしている場合には、せめて一週間に一度は相場を確認しておくようにしましょう。スイスフランなどロンドン市場の情報も得られます。

《「海外金利」で米国債の金利》

 金利(国債の利回り)は、その国の景気を反映しています。景気が悪い場合は金利を引き下げて金回りを活性化しようとしますが、景気が良い場合には金利が高くても企業・個人とも耐えることができるからです。

 たとえば、
・住宅ローンの金利が2%だとしても、預貯金の金利が3%
・物価が毎年2%だとしても、給与水準が毎年2.5%アップ
だとすれば、家計が苦しくなることがありませんよね。

 アメリカやイギリス、ドイツ国債の金利、アメリカやイギリスについては短期金利(金融機関どうしの貸し借り金利)も知ることができます。

《「米国株」でNYダウ工業株30、VIX指数》

 日経平均株価に最も影響を与えるのがNYダウ工業株30です。

 銘柄構成企業は、以前はすべてニューヨーク証券取引所(NYSE)上場企業でしたが、1999年11月にはインテルとマイクロソフトがNASDAQ上場企業から選択されて、現在6社がNASDAQ上場企業となっています。

 また、VIX指数と呼ばれる数値があります。将来の相場に対する投資家心理を反映する指数で、数値が高いほど投資家の“先行き”不透明感が強いとされます。通常は10から20の間で推移しますが、相場の先行きに大きな不安が生じた時には、30から40を超えます。VIX指数については、改めて紹介します。

《将来の不安を解消するのが「先物」》

 いまのままでは「将来損するかもしれない」という不安を解消するために、現時点で取引を約束しておくのが“先物”取引です。

 株式市場であれば信用取引(改めて紹介します)に応用されますし、その他の市場においても先物取引が活発に行われています。単純に“値上がりする予想”か“値下がりする予想”かの2択ですから儲かる確率は50%ですが、実際には値上がりや値下がりの“幅”が大きく影響するので、儲けも損失も大きな額になる可能性があります。

《アメリカの中枢からの発表》

 海外資本への投資をしている人は、読み飛ばしてはいけない記事があります。

 FOMC(経済をよむキーワード①)の発表です。米国には12の中央銀行(経済をよむキーワード②)があり、それぞれ報告書をまとめています。それをひとにまとめたものをベージュブック(経済をよむキーワード③)といい、日経新聞にも夕刊に概要が掲載されます。

 投資をするなら、世界一の経済大国のどんな指数が上向きで、何が課題なのか知ることから始めましょう。金融商品選びはそれからです。

連邦準備制度(FRS)
連邦準備制度(FRS)

【経済をよむキーワード①】FOMCって知っていますか?

 Federal Open Market Committee(連邦公開市場委員会)の略で、​アメリカの金融政策を決定する会合のことです。日本では、「日銀金融政策決定会合」で金融政策を決定していますが、それに当たるものがFOMCです。最近の議長は以下の通りです。

  • 第14代 ベン・S・バーナンキ    2006年2月1日~2014年1月31日
  • 第15代 ジャネット・イエレン   2014年2月1日~2018年2月3日
  • 第16代 ジェローム・パウエル   2018年2月5日~

【経済をよむキーワード②】12連銀って知っていますか?

 アメリカには12の中央銀行があります。正確には連邦準備銀行と言います。権限が1つの銀行に集中しないように、12のブロックに分けて、それぞれに中央銀行を設けています。FOMCで決定したことを実施する役割があります。

【経済をよむキーワード③】ベージュブックの内容って?

 米国の12の地区連銀からの経済報告をまとめたものがベージュブックです。報告書の表紙がベージュ色をしているので、ベージュブックと呼ばれます。年8回、FOMCが開催される2週間前の水曜日に公表されます。

 経済報告のうち、アメリカ経済を象徴する内容(および連邦準備銀行)は以下の通りです。

  • 雇用情報(フィラデルフィア連銀)
  • 商品市場情報(シカゴ連銀)
  • 債券・株式市場情報(ニューヨーク連銀)
ベージュブックでの確認事項
ベージュブックでの確認事項

 ベージュブックの内容に注目記事が無い場合には、夕刊の総合面に記載があります。注目記事・大きな変化点がある場合には1面に記載がありますので、注目度が分かると思います。

 余談ですが。1ドル紙幣の左側には小さく数字と、〇で囲まれたアルファベットが記載されているのですが、これは連邦準備銀行の番号あるいは記号を示しています。

流れをつかむ

 アジアや欧米など、海外の情報は、日本経済・相場の源流です。時間差で日本への影響があることは否定できません。

 海外情報が、投資に、暮らしに“いつ?”影響があるのか、どういう経緯で指標が変化するのかを知っておくだけで、対応策が変わってきます。

 すぐに影響が出る場合には、買い控えなどの消費活動に影響されます。時間的な余裕がある場合には、企業努力があるために、私たちの暮らしへの影響は少ないかも知れません。しかし、収入面での影響が出ることも予想されます。

 投資活動をしている人にとっては、“時間を味方につけること(流れをつかむこと)”が勝利につながります。いずれにしても、源流で何が起こっているのか感度を高めておく必要があります。

日本経済の源流
日本経済の源流

2章のまとめ

2章まとめ
2章まとめ

つづく。

(注)※本記事は2021年6月3日にnoteに投稿した記事を現時点(2022年5月現在)での紙面構成に変更・修正し、追記したものです。

東京うまれ。札幌、東京、大阪、岡山など、全国各地でセミナーや講演活動を行い、好評を博す。2013年より、日経新聞の読み方教室、資産運用や税金対策、資格取得講座を中心に、”見えるお金、分かるお金を、使えるお金に。。。”の探究を楽しんでいる。