タックスと同様、難易度の低い課目です。計算問題が中心で定番の内容が並びます。試験範囲は「贈与とその税金」「相続とその税金」「財産の評価方法」のみなので、苦手分野を集中的に攻略できます。
出題内容は、他の課目以上に“生活に役立つ”内容です。将来必ずやってくる相続にどのように備えるか、いつからどのような対策をとるか、考えるきっかけになります。
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目次
■計算問題が多い
計算問題が多く、ルールを正確に理解しているかを問われるます。その際は、必ず「民法上」か「税法上」かの判断が必要です。その「判断を誤った場合の答えが4択にある」ので注意しましょう。四則演算(+-×÷)だけで回答できる出題ばかりですが、その計算に至る根拠を覚えておけば、いろいろな出題にも柔軟に対応できるはずです。
出題の構成は概ね「相続5割、贈与1割、財産評価2割、事業承継1割、申告1割」です。
■知識を問うもの
文章題は、申告のルール、納税義務者、事業承継がほとんどです。
相続税の申告に関しては「延納」「物納」についての出題が多く、贈与税との違いを比較して覚えましょう。併せて、納税義務者の理解も必要です。海外に居住していた人の相続にて、課税対象を正確に判断できる必要があります。
事業承継は毎年にようにルールが改正があるので最新のルールを確認しておく必要があります。自社株評価と連動した事業承継対策の出題も多いので、計算方法だけでなく、計算式の意味が理解できると正答率が上がります。
■「民法と相続税法の違い」から
とくに注意したいのは「民法と相続税法の違い」です。民法は、相続する人たちの間でモメごとが発生した場合の解決方法が決められています。財産の分け方、話し合いのルールなどです。一方の相続税法は、税務署がいくら税額を徴収すべきか判断する材料です。
ポイント❶相続の概要は、民法のルール。
民法の判断基準は”いま”です。相続人たちが揉めているのは”いま”ですよね。財産の価額は「贈与時」のことはどうでも良く、分割したいと思っている”いま”まさに”相続時”です。しかも「評価額(税務署が決めた額)」ではなく「時価(実際の売買価格)」です。
- 相続財産; 相続分、相続人、寄与分や特別受益、遺贈
- 時事問題; 特別の寄与、配偶者居住権
- 遺言; 効力、自筆証書遺言のルール
- その他; 遺産分割協議、成年後見制度
ポイント❷相続税法のルールで税額を計算し、申告する。
相続税法は税務署が決定・判断するルールです。税法独特のルールを理解できているかを問われます。定番なので確実に得点したい内容です。
- 課税価格の計算; 保険金、退職手当金や弔慰金、生前贈与財産
- 相続財産の知識; 債務や葬式費用、小規模宅地の特例
- 相続税総額の算出過程; 基礎控除、課税遺産総額、相続税の総額
- 個別の相続税額; 2割加算、贈与税額控除、配偶者の税額軽減額
- 納税義務者; 制限納税義務者の課税価格、国外財産財産評価
ポイント❸相続対策が出題の主流に?
相続対策(手持ち財産の変更)によって課税遺産総額がどの程度軽減するかを問うものです。最近、文章題だけでなく計算問題での出題が多くなり、関連出題が主流となりつつあります。回答にやや時間がかかるため、正確さが問われます。過去問で傾向を掴んでおきましょう。
- 相続対策;養子縁組、生命保険契約、不動産の活用による課税遺産の減少額
ポイント❹贈与税は条件に沿って税額を計算できること。
試験回ごとに出題数にバラつきがあります。最近は、基本事項を問う出題だけとなり、相続関連の出題が多くなっています。贈与に関する知識は過去問への依存度が高いので、過去問の演習を繰り返しお願いします。
- 贈与税額の計算; 暦年課税、相続時精算課税
- 課税財産の知識; 贈与財産、特例財産、配偶者控除、相続時精算課税制度
ポイント❺財産評価は設定がややこしい。
基本に忠実に回答することが大切です。条件設定が複雑になりつつありますが、ひとつずつ情報を整理して回答することが大切です。過去問は最近のものから遡って演習しましょう。
不動産(土地)の評価、金融商品(株式や生命保険)の評価が出題の中心ですが、ほかにも自社株や事業承継対策の理解も必須です。とくに自社株の評価で問われることの多い「類似業種比準」や「純資産価額」が意味する内容を正確に理解しておきましょう。
- 土地・建物評価; 自用地、貸家建付地、賃貸建物
- 金融商品評価; 株式、投資信託【過去問の詳しい解説】、生命保険契約に関する権利【過去問の詳しい解説】
- 事業承継; 自社株の評価【詳しい解答解説】、遺留分の特例、納税猶予/免除の特例、譲渡制限株式
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定番問題1. 贈与
<基本知識>
贈与契約にはどのようなものか、取消し可能な要件を覚えておきましょう。また、贈与の種類に関しては、概要と課税される税金の種類を覚えておく必要があります。
<贈与税の課税対象>
どのような財産が課税対象なのか、誰から受け取った財産なら非課税となるのか、対象財産の把握と課税価格(課税対象の合計金額)の計算ができる必要があります。
とくに、扶養義務者からの生活費の贈与や、相続開始年に被相続人から贈与を受けた財産などの「贈与税の非課税財産」、住宅取得資金や結婚・子育て資金などで一定の要件を満たすものなどの「特例財産」に関する出題が多いです。
特例財産に関しては、比較して覚えましょう。受贈者に対する要件、相続時の課税対象についての出題が顕著です。
<贈与税額の計算>
贈与税の課税方法は「暦年課税」「相続時精算課税」の2つがあります。暦年課税では「配偶者控除」の知識【過去問の詳しい解説】と贈与税額の計算、相続時精算課税制度では贈与者および受贈者の要件、贈与税額の計算ができることが重要です。
店舗併用住宅の場合、「贈与財産の持分」と「全体に対する居住用部分」のうち小さい方の割合を配偶者控除(上限20,000千円)として適用できます。なお、居住用部分が90%の場合は全体を居住用部分として計算できます。
定番問題2. 相続の基礎
<相続の概要>
相続の原因(失踪宣告)、相続の場所(税務署)、相続財産の種類について確認しましょう。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に相続の承認または放棄をしなければなりません。承認、放棄に関するルールのほか、準確定申告(翌日から4ヵ月)、相続税の申告(翌日から10ヵ月)についても確実に理解が必要です。
<相続人>
被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外は次の順序で配偶者と共に相続人となります。第一問は「民法上の法定相続人・相続分」です。
相続人かどうか、民法と相続税法ではルールが異なります。例えば、相続の放棄があった場合、民法では相続人ではなくなりますが、相続税法では相続の放棄がなかったものとして判定します。これは、相続税の課税対象を減らす目的で「放棄」を選択したり、ほかにも養子を迎えることなどに制限をかけるためです。
<相続分>
養子縁組(二重身分)、相続の放棄、再婚など、設定が複雑化する傾向にあります。ほかにも、養子縁組に関する出題もあります。特別養子と普通養子の相違点を比較して覚えましょう。
<特別受益>
一部の相続人だけが被相続人から生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益です。これを特別受益とした場合、その他の財産を含めて公平に財産を分ける必要があります。特別受益になるものは「生前贈与」「遺贈」「死因贈与」です。
また、贈与された財産が現存しない場合の評価について問われます。
<寄与分>
被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができます。具体的な計算をできるようにしておきましょう。
<配偶者居住権>
文章題として出題されます。以下の基本事項を覚えておきましょう。
<特別の寄与>
こちらも試験では文章題として出題されます。
- 「被相続人の親族であって相続人ではない」「無償で療養感度などをした」「財産の維持または増加について特別の寄与をした」すべて満たすこと
- 特別寄与額は相続税の課税対象
定番問題3. 遺言・遺贈
遺言の種類、遺産分割協議、分割方法、分割協議、分割後の課税についての理解が重要です。
<遺言>
遺言できる内容、遺言の種類については必ず理解しておきましょう。時事問題として自筆証書遺言保険制度についての理解も必要です。自筆証書遺言が遺言書保管所にある場合「家庭裁判所の検印が不要」であること、保管を申請する場合「本人の出頭」が必要です。
<遺贈、遺留分>
包括遺贈と特定遺贈の違いを理解してきましょう。具体的な知識を問われることもありますが、相続税の計算過程、あるいは納税義務者に関する出題の中で「包括受遺者」「特定受遺者」という言葉がでてきます。包括受遺者は相続人と同一の権利・義務を負うと理解しておきましょう。
また、相続人の遺留分について簡単な出題があります。「相続財産×総体的遺留分×法定相続分」で求めることができます。
<成年後見制度>
法定後見制度に関して、よくある出題は以下の通りです。
- 誰が申立てできるのか
- 付与される権利
- いつ、どのように後見人等が選任されるのか
また、任意後見制度についても出題されることが多いです。まずは、下記の事項を確認しておきましょう。余力があれば、法定後見制度と比較して詳細を覚えることをお勧めします。
- 任意後見の登記
- 任意後見契約の解除の方法
- 任意後見人の解任権限
定番問題4. 相続税の計算
贈与税(定番問題1.贈与)と同様に、どのような課税財産があるのか、どのように課税対象を決めるのかを問う出題が多数あります。財産の種類ごとに出題があり、正確に理解しておく必要があります。出題は多岐にわたるため、3つのステップに分けて理解すると良いでしょう。
<ステップ❶課税対象となる財産、ならない財産>
非課税財産については、内容、非課税枠の計算方法など必ず正答できるようにしましょう。死亡退職金と弔慰金は同時に問われるので、それぞれに異なる非課税枠を適用します。
債務控除や葬式費用については、放棄した場合の適用の有無を判断できる必要があります。
生前贈与財産は、どの財産が加算されるのかの判断が必要です。暦年課税を適用していた場合には「相続開始前3年」「相続人または包括受遺者であること」が要件です。
<ステップ❷課税遺産総額、相続税の総額>
ステップ❶で決定した課税対象から基礎控除を引いた残額(正確にはここで贈与財産を加算)が課税遺産総額です。基礎控除額や課税遺産総額の計算ができるようにしておきましょう。
課税遺産総額から相続税の総額を求めるまでの過程は税法のルール、そこから実際の取得額に応じて各人の税額が決まります。相続税の総額についても計算できるように練習しておきましょう。
<ステップ❸相続人ごとの相続税額>
ステップ❷で決まった各人の”仮の”相続税額から、相続人ごとの事情に応じた税額の調整があります。とくに、
・2割加算
・贈与税額控除
・配偶者の税額軽減
の計算、「未成年者控除」「障害者控除」の適用判断です。
2割加算については、対象となる親族の条件の理解が必要です。
贈与税額控除は、暦年課税の適用を受けた財産(相続開始前3年以内に被相続人から受けたもの)に対して納めた贈与税額が対象ですので、過去3年を超えた分や、被相続人以外から受けた財産を対象にしないよう注意が必要です。
配偶者の税額軽減に関しては、「軽減額」あるいは「軽減後の税額」が問われます。
未成年者控除、障害者控除の共通点は「放棄した場合」「遺贈があった場合」に控除が可能です。また、制限納税義務者であっても控除が可能です。非居住無制限納税義務者の場合は未成年者控除のみ適用可能です。
定番問題5. 相続税の申告・納付
<申告>
納税義務者に関して詳細な理解が必要です。「過去10年に日本に住所があったか」「贈与税を申告していたか」によって課税対象の財産や適用できる控除の種類が異なります。
最低3問出題があり、足し算/引き算だけの計算なので、得点しておきたい内容です。問題の設定をしっかり読んで「納税義務者」の分類ができるようにしましょう。とくに生前贈与財産は「贈与当時に贈与税の課税対象であったかどうか」の判断が重要です。
修正申告も更生の請求も「いつまでに必要か」「罰金(税額)」を覚える必要があります。細かいことが問われるので、学習に余裕のある場合に覚えれば十分です。
<納付>
延納や物納について、各適用要件や審査期間、変更する場合の条件など、非常に細かい内容まで問われます。まずは過去問でどこを重点的に覚えたら良いかを判断しましょう。
できれば、連帯納付義務については得点したい内容です。
特定の相続人が納付できない時、自己が受けた利益の範囲内で他の相続人が納付し特定の相続人が後から支払う必要があります。これを連帯納付義務といいます。
- 相続税を納付すべき相続人が納付前に死亡した場合、死亡した者の相続人が連帯納付の義務を承継する。
- 連帯納付義務者の負担部分は、納税者間に特約があるときはそれにより、特約がないとき ❶共有物の持分または共同事業等により受ける利益の割合 ❷定まらないときは均等とする。
- 申告期限から5年経過している場合や、延納・猶予の特例を受けた分の滞納については、連帯納付義務を負わない。
定番問題6. 財産評価
相続税や贈与税を計算するときに、相続や贈与などにより取得した財産の価値の把握が必要です。現金や保険金のほかに、株式・投資信託のような金融商品、土地や建物についての評価方法に関する出題が多くあります。
<不動産の評価❶自用地評価>
自用地評価=路線価×奥行価格補正率×地積
が評価方法の基本ですが、複数の道路に接している場合(角地評価、二方路線評価)の評価方法が問われることが多いです。
<不動産の評価❷権利の評価>
権利の評価=❶自用地評価×権利の割合
で土地の上に存する権利の評価を行います。試験ではもっぱら普通借地権、貸家建付地の評価が問われます。
<不動産の評価❸評価減の特例>
小規模宅地等の評価減の特例は、一定の要件を満たせば限度面積まで一定割合を減額するものです。試験では要件を満たしているかを判断したうえで特例を適用した結果(評価額)を求める必要があります。
<その他の財産評価>
土地の評価以外にも、建物、上場株式・上場投資信託、定期性預金、生命保険契約に関する権利の評価については出題頻度が高いです。なお、非上場株式は「自社株」、非上場投資信託は最終取引日の基準価額または解約価額で評価することを覚えておくと良いでしょう。
定番問題7. 事業承継
自社株や事業承継対策の理解も必須です。とくに自社株の評価では「類似業種比準価額」や「純資産価額」について、計算できるだけでなく、それぞれが意味する内容も理解が必要です。
<自社株の評価>
「同族株主」に該当するか、「会社規模」はどの程度か、「特定会社」に該当するかによって、原則的評価方式である「A.類似業種比準価額」「B.純資産価額」、特例的評価方式である「C.配当還元価額」を採用します。
同族株主に該当しない場合は「C」、同族株主に該当し特定会社となる場合には「B」、それ以外は「A」「B」の併用と覚えておけば十分です。会社規模によってどのように評価するかは下記の通りです。
「A.類似業種比準価額」「B.純資産価額」「C.配当還元価額」それぞれの計算方法は所与されます。まずは正確に計算できるよう練習しておくことと、それぞれの計算式が意味するところを理解しておくと良いでしょう。
それぞれの計算式にどのような要素が含まれているか、言い換えるとどの項目を少なくすれば各評価額が減少するのかの判断ができると、さらに得点源となります。
総括
もっとも過去問依存が高い課目です。従来とは出題範囲の配分が変化してきましたが、出題内容については従来通りです。繰り返し演習することで、必ず克服できるはずです。
- 贈与税と相続税の計算の仕組み、流れ、互いの関係
- 財産評価
- 相続事業承継対策
まずは、苦手分野の克服から始めましょう。
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